都市圏と田舎の霊園

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首都圏で盛ん霊園開発・団塊世代の需要にらみ、異業種も参入

 首都圏を中心に霊円開発が相次いでいる。団塊世代の大量退職や高齢化を控えて需要は根強く、開発の勢いは衰えていない。安い中国産墓石の輸入増しも追い風となり、異業種からの参入も相次ぐ。独特の経営構造の霊園業界はいま。

 

 横浜市の郊外。なだらかな丘に墓地が広がる。開園して2年。いまも墓地を求める客が訪れ、すでに3分の1以上が売れたという。霊園の代表者(60)は以前、不動産会社を経営していた。この業界に入って約30年になる。 「正直いって霊園開発はおいしい商売です。開発が終われば、墓石・墓地販売業者が墓地の販売権を買い取り、墓石込みで売り込んでくれる。我々は汗水流さなくても投資資金を回収できますから」

 

 この霊園に参加している墓石販売業者は十数社。1平方メートル当たり60数万円の保証金を積んで墓地を売る権利を買い取る仕組みだ。霊園の広さは二千数百平方メートル。墓石販売業者はこれまでに約半分の権利を買い取った。この収入が8億数千万円。さらに墓が建ったときに墓石業者から支払われる「建墓権」料が約2億円。投資した十億円はほとんど回収したという。

 

 販売中の墓地の値段は1.1平方メートルで200万円前後。墓石の9割以上は中国からの輸入品で、20万〜30万円で手に入る。彫刻料(5万円)や工事費、PR費などを差し引いても、少なくても3〜4割の粗利益が出る勘定だ。

 

 この霊園で墓地を販売している墓石販売業者(62)は「長引くとセールスの人件費や宣伝費がかさむので、いかに早く売り切るかが勝負になる。宣伝にはふんだんに金を使うよ」と話した。

 

 売出しから3ヶ月間は墓石販売業者十数社が合同で出すチラシ「合チラ」でPRする。費用は月600万円にのぼるという。「合チラ」の配布は売出しからまず3ヶ月間。その間の客は墓石販売業者に平等に割り振られる。

 

 3ヶ月が過ぎると、「合チラ」のほかに、墓石販売業者が単独で出すチラシ「単チラ」作戦が始まる。「合チラ」の配布区域以外の客が対象だが、客が3社以上のチラシを持って来たときは、「合チラ」と同じ扱いになる。問題は2社のチラシを持ってきた時。その場合は「バッティング」といい、星取り表をつけて交互に客をもらう。「単チラ」の費用は1社当たり月に30万〜40万円にのぼる。

 

 「どの地域にチラシを打つかは絶対秘密です。食うか食われるかの競争だから」首都圏の霊園が割高なのは土地代に加えPR費がかさむためだともいわれている。
 中国産墓石の値段は日本産の3分の1程度だ。安い墓石が中国から大量に入るようになったことも霊園開発を勢いづけている。日本石材産業協会(東京)の調べでは、中国産墓石の輸入は10年ほど前から増えてきた。日本の石材業者が中国・福建省に合弁会社を設立し技術指導を始めて以来、品質が向上してきたという。

 

違法経営で販売停止も
 中国の石材産地は山東省福建省などにあるが、墓石の加工業者は福建省に集中。茨城県取手市の墓石輸入会社A社の「A社長は福建省石材組合の顧問を務める。中国からは完成品で届くので、日本の墓石業者は石屋の技術はいりません。異業種からの参入が多いのが、この業界の特徴ですね」取引のある日本の墓石販売業者は三十数社。うち3分の1は仏壇販売業などの他業種で、大手の仏壇販売業者も墓石の販売で稼いでいるという。

 

 相次ぐ霊園開発は1都3県のデーターでも裏付けられている。マンション建設などよりも少ない投資で済むこともあり、様々な業者が参入。強引な開発で販売停止命令を受けたり、豊満経営が問題になったりするケースもすく少ない。

 

 横浜市ではここ2年の間に青葉区と保土ヶ谷区の霊園が一部使用禁止命令(販売停止命令9を受けている。いづれも宗教法人の名義を借りて墓地の経営許可を取っていたことが、違法造成などをきっかけに分ったという。さいたま市の霊園では03年、学校法人の元理事長が暴力団幹部らに現金9千万円を脅し取られてる事件も起きている。

 

 住宅地の真ん中に約600区画の霊園計画が持ち上がったのは東京都国分寺市。第一種低層住居専用地域で霊園の監理事務所建設にストップがかかったが、住民は昨年、工事差し止め請求訴訟を起こすなど徹底抗戦の構えだ。

 

 横浜市では2万5千区画の霊園を運営する財団法人が豊満経営による巨額の負債などのため09年、財団としての認可を取り消され、霊園の経営母体が存在しない異例の事態になった。しかも5千区画は違法造成が判明、横浜市から是正命令を受けたまま。違法墓地から脱却する道を探っているが、前途は多難だ。

 

 条例で墓地の開発許可条件を厳しくする自治体も増加、新たな開発は難しくなってきた。加えて、中国産墓石に値上げの暗雲が漂いはじめている。ここ数年、中国国内での需要が増えているためだ。とくに08年の北京五輪や、10年の上海万博開催に向けて国内の需要は高まるばかり、価格が安い日本市場を敬遠し、中国国内や欧米向けの建築石材に力を入れる石材業者も増えているといわれている。

 

 A社長は日本の霊園業界の将来について「少子化や埋葬形式の多様化で、あと十数年のうちに急速に縮小するのではないか」と言う

 

墓地の経営
 公共性、永続性などの観点から、国の指針によって自治体か宗教法人、財団法人のいづれかにしか認められていない。問題になるのは、霊園開発業者が宗教法人から名前を借りて許可を取る「名義貸し」のケースだ。しかし、その実態は、違法造成などで宗教法人の責任問題が表面化しないかぎり、分りにくいのが実態だ。
参考情報
 墓石業者によると、墓地の中心的な価格は、バブル時は300万円前後、最低は200万円前後、最近は200万円前後と、かなり安くなっている。ところが安さの原因は墓地の広さにもあるという。バブル時は1区画2〜3平方メートルが主流だったが、最近は1平方メートル前後が多い。霊園によっては0.49平方メートルの墓地もあるという。出典 :朝日新聞